11000 倫理学

課題2.四つの禁制について、その例外的状況もありうるのかを考察しつつ、述べなさい。

 四つの禁制は、人を殺すこと、嘘をつくこと、盗みをすること、性道徳が混乱すること、の四つを示す。もしもこれがあたり前になったならば、共同生活が出来なくなるような行為であり、いつの時代、どこの社会でも許されていない。しかしながら、社会的な環境は様々であり、人間が生きていくということを考えた場合、これらの行為が例外的に許される状況があるのではないかとの疑問も生じる。

 ここでは、四つの禁制について、例外的な状況がありうるのかについて考察したので、その結果を論述する。

(1)人を殺すこと

 どんな未開の社会でも、同じ部族の者を殺すことは許されていない。生活を共同している同胞を殺せば死刑になるのが当然のことであると考えられている。
 常識的には、自分の利益のために人を殺すことは、許されるものではない。しかし、戦争中であって、任務として人を殺さなくてはならないような状況にいる場合では、個人的には殺したくなくても、人を殺さざるを得なかったと考えられる。こうした場合、時代が変わったからといって社会的に許せないと言うことはできないであろう。
 また、日本には死刑制度があり、執行例は少ないとはいえ、実際に人を殺している。これについても社会的な是非を問うことは難しいであろう。
 自衛のための殺人については、法的に正当防衛が認められているように、明らかに身を守るためには殺さざるを得ないと判断されれば、社会的に責任を問われるものではないと考えられる。

(2)嘘をつくこと

 うそをつくことが是認されて、たがいにうそをついたならば、言葉は役に立たなくなってしまう。これでは共同生活はなりたたない。
 とはいえ、人間は日常的に嘘を付いている。多くの場合は自分の身を守るためのちょっとした嘘である。このような嘘は、誰でも経験があり、理解できるものではあるが、建前上では許されるとは言えない。
 また、他人のために嘘を付く場合もある。例えば、本当のことを言えば相手を傷つけそうな場合などである。このような嘘がすべて許されるとは言えないが、共同生活を円滑に保つための嘘であり、多くの場合は社会的に裁かれるものではないであろう。
 なお、法的には夫婦間の契約(つまり約束)は破っても罪を問われないことになっており、共同生活を維持していくためには結果的には嘘となることも止む終えない場合があると解釈できる。

(3)盗みをすること

 お金を盗む、物を盗む、アイデアを盗む、どちらにしても人のものを盗むという行為は、法的には許されないものである。盗みが許されたならば、安心して生活することはできないであろう。
 では、歴史的に盗みがどんな場合にも許されないか、というとそうでもない。例えば戦争における略奪である。敗戦国では、どれほど正義を歌った戦いであったとしても、相手国に与えた不利益はすべて償いを要求される。これに対して、勝利国では、敗戦国から、物や権利を奪うのは当然の権利であり、戦争中に行われた略奪についても、その罪を問われることはないのである。

(4)性道徳が混乱すること

 性道徳が乱れたならば、信頼により成り立っている夫婦の関係が壊れ、親子の関係も破壊される。じぶんの親、じぶんの子を信じて疑わないでいられるのは、性道徳を乱すような行為をしていないという信頼感があるからこそである。
 とはいえ、(3)と同様に戦争中に行われた姦淫行為については、戦勝国では問われることは少ないであろう。

 以上に述べてきたように、四つの禁制は社会的な環境や時代背景によっては、例外的に許される(罪を問われない)場合もあるが、共同生活を成り立たせるためには非常に重要なものであるといえる。

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