13031 生物学

課題2.動物社会における分業について述べよ。

 社会という概念は、一般的には人間社会を指すものである。これに対して、動物の関係の中にも社会という概念を認める考え方がある。この立場に立つ場合にも、異種の個体間の関係を社会に含める立場と、同種の個体間の関係としてだけ社会を認める立場がある。後者にはさらにすべての生物間に社会を認める立場と、特定の動物類だけに社会を限定する立場がある。以下では、最後の立場を前提として記述する。

 社会は、様々な動物の複雑な生活様式として、社会そのものとその社会を構成するメンバーの存続と発展のために、様々な機能をはたしている。社会を一つの生活体として機能させるためには、社会の構成メンバーの間に何らかのつながりとメンバーの行動を統合するための働きがなければならない。その代表的なものが、「栄養交換」と「分業」である。

 Wheelerは、単に栄養物としての食物の交換ばかりではなく、社会のメンバー間を統合し結びつけるために必要な生理的な直接相互的な交換を「栄養交換」と名づけた。例えば、スズメバチなどの働きバチが幼虫に食物を与えるときに、幼虫が唾液を分泌し、これを働きバチが熱心になめるような現象である。

 「分業」は、社会のメンバー間の協同と関連して発生しかつ発達する。「分業」を広い意味にとれば、非社会的な生活様式のものにもみられるが、ここでは社会内での分業に限ってみることにする。

 「分業」とは、社会を生活体として機能させるための働きを、個体間で分担することである。「分業」は、社会を生活体として機能させるために発生し発達したと考えられている。「分業」の形態は、昆虫社会と哺乳類の社会では大きく異なっている。以下にそれぞれの特徴を示す。

@昆虫社会の分業

 高度に進化した昆虫社会では、社会内の分業に対応して、機能的・形態的に区別される「階級」の個体が存在し、これらによって社会的分業が行われている。

 社会性昆虫では、形態学的な多型現象(poymorphism)と結びついた「階級」が目立ち、このことが昆虫の研究者には特に注目されている。

 これに対して、乾燥地帯に住むアリ類(ミツアリ、オオアリ、オオヅカアリなど)の密壺(honey-pots)は乾燥地帯という環境が作り出した生理的「階級」の一例である。このような機能的(すなわち生理的)「階級」や行動的「階級」は形態的「階級」の先行的な現象であると考えられている。

 昆虫社会のメンバーは、その個体を犠牲にして社会の「部分品化する」傾向が基本的であるといえる。この個体の行動は主として本能的であり、遺伝的に固定化されている。

A哺乳類の分業

 哺乳類は脳が発達し、心理的知能が高いため、個体の行動が制御できる。社会生活を営む上でも知能的行動が大きな役割を果たす。

 したがって個体性が確保されるとともに個体間の相互の識別能力が発達し、優れた能力を持つ個体がリーダーとなり、群(社会)の統合の中心となる。つまり哺乳類では、昆虫類と違って、社会の統合に心理的な要因が重要となり、生理的な要因は間接的なものとして後退している。

 哺乳類の個体性の確保は、生理的・形態的に分化した「階級」を発生させない。性別や年齢による差異が存在するだけである。この「階級」のかわりに、社会的・心理的に規定されているステータス(個々の個体またはクラスの地位)が発達し、それが社会内の「分業」と結びついている。オスの個体もメスの個体も同等に社会の構成員として活動でき、オスの一部は群の中で優位の立場を占めるにいたる。

 例えば、ニホンザルの社会(群)では、群の中のステータスとして、ボスザル(リーダー)、ボスミナライサル(サブリーダー)、ワカモノ、オトナメス、ムスメ、コドモ、アカンボのようなステータスが区別されている。

 他の動物では、一般に特殊化の方向に向かっているのに対し、哺乳類では特殊化が少なく、むしろ一般化の方向に向かっている。

 

戻る